東京駅丸の内北口の生きる伝説。日本一の靴磨き職人であり孤高の画家「パブロ賢次」の半生と芸術哲学

​東京の玄関口であり、日々数え切れないほどのビジネスマンや観光客が行き交う東京駅丸の内北口。

その一角に、半世紀以上にわたって道行く人々の足元を支え続けてきた伝説的な人物がいます。

彼の名は「パブロ賢次」。

靴磨き現場のパブロ賢次

現在、この場所で唯一、東京都と警察から正式に歩道利用の許可を得て営業している「日本一の靴磨き職人」です。

​しかし、彼を語る上で決して欠かすことのできない、もう一つの強烈な顔があります。

それは、国内の名門画廊や有名百貨店で次々と企画個展を成功させ、近年では自伝の出版、そして東京タワー5階での大規模な常設展を開設させるに至った「プロの洋画家」であるということです。

​靴磨きと画家。

一見するとまったく交わることのないように思えるこの二つの道を、実に55年以上にわたって並行して歩み続け、自らを「孤高の画家」と称するパブロ賢次(本名:赤平健二)さん。

今回は、彼の数奇な半生と、靴の汚れから世相を見つめて導き出された独自の芸術哲学、そして現在開催中である東京タワーでの大々的な展示プロジェクトについて、詳しく紐解いていきたいと思います。

​丸の内北口の守り神。半世紀の歴史を持つ靴磨き稼業

​パブロ賢次さんが靴磨きの世界に入ったのは、高校を卒業した直後のこと。

今からなんと55年以上も前の1960年代後半に遡ります。もともとこの靴磨きは、ご両親が終戦直後の1945年に進駐軍のアメリカ兵たちの靴を磨くことから始めた家業でした。

戦後の復興期には、特例的に路上での営業許可が出されていましたが、その後は新規の登録が認められなくなりました。
かつては丸の内にも多くの靴磨き職人が軒を連ねて活気に満ちていましたが、時代の変遷とともに一人、また一人とその姿は消え、現在、正式な許可を持ってこの丸の内北口で営業を続けているのは、二代目であるパブロ賢次さんただ一人となってしまいました。

​全盛期には家族4人で靴磨きをしており、家にはピアノがあるような豊かな生活だったと言います。
パブロさんの手にかかれば、どんなに疲れ果てた靴でも約15分でピカピカに蘇ります。「患者さん」である靴の状態を丁寧に診断し、革のシワやザラつき、ツルツルとした質感の千差万別さに合わせて、古い下着の布を微妙に使い分けます。水と油性の靴墨を絶妙なバランスで操り、表面に余分な靴墨を残さずに革の奥深くまで浸透させるその技術は、まさに神業と呼ぶにふさわしいものです。

​また、靴を磨いているおよそ15分の間のお客さんとの対話も、パブロさんにとって大きな楽しみの一つです。

常連客の中には、一部上場企業の社長や大物政治家も少なくありません。
「政治家の人から社長さんまで、誰もがここでは気軽に腹を割って本音で話してくれる。それはとても貴重なことだと思っています」と彼は語ります。


「靴磨きの仕事が好き。時代が変わっても、いろんな人と出会えることが楽しい」と語る彼の周りには、いつも温かく、そしてどこか哲学的な空気が流れています。

​芸術の血脈と「パブロ賢次」という名の誕生

​さて、靴磨き職人として超一流の顔を持つ一方で、パブロ賢次さんにはもう一つの「ひとすじの道」がありました。

それが「絵画」の道です。

​実は彼、1950年に茨城県笠間市で生まれ、極めて格式高い文化家系の出身なのです。

祖父は東京藝術大学で蒔絵(まきえ)の講師を務め、国会議事堂の扉や天皇陛下がお座りになる椅子の装飾を任されたという伝説的な名工でした。実の兄もプロの洋画家であり、パブロさん自身も幼い頃から芸術の息吹が根付く環境で育ちました。

​靴磨きとプロのバンドマン(サックスやフルート奏者)として自ら学費を稼ぎ出し、明治大学法学部、そして早稲田大学の第二文学部美術科で美術史を深く学びました。

その後、芸術院会員であり東京教育大学教授を務めた藤本東一良氏、および日展評議員の桐野江節雄氏という二人の巨匠に師事します。

デビューと同時に光風会展に入選するなど華々しい成績を収めましたが、組織の枠に縛られることを嫌い、やがて日本の画壇から離脱します。

以後、「孤高の画家」として独自の感性を貫き、髙島屋、日動画廊、帝国ホテル、丸善・丸の内本店、三越、さらには中東のドバイなど、国内外の名門ギャラリーにおける企画個展のみで作品を発表し続けてきました。

​「パブロ賢次」という強烈な名前は、巨匠パブロ・ピカソから借用したものです。
「ピカソは単なる芸術家としての側面だけでなく、西洋文明自体を根底から覆した思想家でもあります。そんな彼の精神にあやかりたい」という熱い思いが込められています。

改名して数年が経ちテレビ番組やラジオ番組でも多く取り上げられ、今ではすっかりこの名前が板についています。

​労働が芸術を支え、芸術が労働を哲学に昇華させる

​パブロ賢次さんの最大の魅力であり、類い稀なる特徴は、「靴磨き」と「絵描き」が完全に独立したものではなく、互いに深く結びつき、驚くべき相乗効果を生んでいる点にあります。

​信じられないかもしれませんが、靴磨きの常連のお客さんの3割は、彼の絵画の顧客(コレクター)になっているそうです。路上で足元をピカピカに磨き上げながら交わす対話の中で、お客さんはパブロさんの深い人間性や哲学に触れ、やがて彼の描く絵の世界にも強く魅了されていくのです。「靴磨きの仕事をやってきたおかげで、絵を続けられてきた」と彼は振り返ります。

​丸の内という日本経済の中心地で、道行く人々の足元から半世紀にわたって世相を見つめ続けてきたパブロさん。戦後の復興期、バブルの狂乱、そして近年のコロナ禍まで、あらゆる時代を特等席で観察してきました。その鋭い観察眼と、日々路上で培われる泥臭い人間ドラマは、彼のキャンバスに計り知れない深みを与えています。

​彼は2022年に出版した自伝『日本一の靴磨き職人とピカソ』の中で、「感動が何よりも大事である」と語っています。

眼に見えるものの背後にある「見えないもの」 ― 風の音、匂い、何者かの気配を描き出すこと。
人生には苦(四苦八苦)が満ちているからこそ、芸術は人々を豊かにし、楽しませる使命があるのだと彼は信じています。
時代のスピードがどれだけ速くなっても、私たちの心を深く満たしてくれる美しい風景は千年前の自然と少しも変わらない。

この揺るぎない信念こそが、彼の作品が多くのエグゼクティブたちの心を打ち、高額で取引される理由なのです。

​1号あたり12万円の価値。孤高の画家の真骨頂

​パブロ賢次さんの作品は、現在、東京タワーの展示場で「1号あたり12万円(税別)」という非常に高い価格で一律に販売されています。
これは、実質的に日本の巨匠クラスと全く変わらない評価です。

​パブロさんの持論は非常に明快で力強いものです。

「絵は高ければ高いほど売れる」。

人間は真なるもの、すなわち実存に感動するからです。
バブル時代に持て囃された巨匠の絵が出回り、リーマン・ショックやコロナ禍の影響で急速に多くの絵画作品が値崩れを起こす中、パブロさんの作品は全く値崩れしていません。
事実、これまでの累計販売実績は1億5000万円を超えています。

​彼は日本のプロ画家のシビアな現実についても語っています。
「日本において、1号10万円以上で流通して生活できるプロの現役の画家は50人程度。1号15万円以上ともなれば20人もいない。20万円になれば10本の指に入ります」と本人談。
当時の師である藤本東一良氏が1号25万円、桐野江節雄氏が8万円であったことと比較しても、パブロさんがいかに美術マーケットにおいて高く評価されているかがわかります。

「画壇から離れ、無所属の画家として活動しているプロの画家は日本にはほとんどいない」と語る通り、彼は名門画廊から企画展を直接依頼される、真の意味での「プロの企画作家・契約作家」なのです。

​彼が描くのは、ただの綺麗な風景ではありません。

特に彼の代名詞とも言える「FUGAKU(富描く)」シリーズをはじめとする絵画群は、彼が「自分の富士は日本一」と自負する圧倒的なエネルギーに満ちています。
片岡球子の絵のような装飾性が強い作品とは一線を画し、彼自身の眼で捉えたリアリティがキャンバスに叩きつけられています。
本物を求めるコレクターたちが彼の作品の前に立ち、画家の圧倒的な自信と哲学に触れれば納得できるはずです。

​東京タワー5階「東京相撲部屋娯楽」での常設展プロジェクト

​そして2026年、パブロ賢次さんの画業において新たな金字塔となる巨大プロジェクトがスタートしました。

日本の象徴である「東京タワー」。
その足元にある施設「フットタウン」の5階に新たにオープンした体験型施設「東京相撲部屋娯楽(TOKYO SUMO CLUB ENTERTAINMENT)」のお土産売り場に、彼の大規模な常設展示コーナー(パブロ賢次ワールド)が開設されたのです。

​この空間では、彼の代表作であり「日本一」と誇る富士山の作品を主軸に、大型の睡蓮や花、日本の美しい風景、さらには滞欧時に描き溜めたフランスやイタリアの風景画など、約40点もの傑作が一堂に会しています。
まさに「孤高の画家」の集大成とも言える重厚な空間が広がっています。

東京タワー5階東京相撲部屋娯楽内の展示場

​絵を手に取って鑑賞できる試み

会場は単なる展示にとどまりません。

なんと数十万円の作品を陳列棚から手に取って鑑賞できるのです。

サムホール、3号、4号の絵が陳列棚に無造作に置かれ、気軽に絵画を手に取ることができます。ゼロ距離でまじまじと鑑賞することで、パブロ賢次の筆遣いやキャンパス生地の残り具合、絵具の使い方を体感できます。

体験型イベント施設にふさわしい試みでもあります。

来場する海外旅行客、世界中の人々に本物のアートを届けるため、全ての作品の即日購入(東京相撲部屋娯楽のレジで会計)・即持ち帰りが可能な販売方法をとっています。

インバウンドの旅行客がスーツケースに入れて預け荷物で帰国する事が出来るわけです。

この試みは日本の従来の画廊の文化に衝撃を与える結果となっています。

さらに、英語と日本語が堪能でアートに精通する通訳コーディネーターを配置し、作家であるパブロ賢次本人とお客様との同時通訳を可能にしました。

海外発送(DHL)のフラットレートでの手配や、無料の特製ギフトバッグの提供など、VIP対応の購入体験がシステム化されています。

​相撲という日本の伝統文化が息づく娯楽空間の一角で、パブロ賢次さんが描く宇宙的自然の気配が静かに、しかし圧倒的な存在感を放っています。

この場所は、訪れる人々に「真の日本文化と芸術」を体験させる、唯一無二の世界的アートスポットになろうとしています。

​おわりに 〜靴を磨き、心を磨く〜

​「Shoe Shining is Soul Shining(靴磨きは魂磨き)」。

​パブロ賢次さんに靴を磨いてもらった人は皆、不思議と爽やかな顔になって立ち去っていくと言います。

彼が磨いているのは、単なる革の表面ではなく、その靴を履いて歩む人の心そのものなのかもしれません。

​東京駅丸の内北口の路上では、お客さんの足もとに向かい、ひたむきにお客さんの人生模様に耳を傾け靴を磨く姿。
そして、富士山のふもとでは、カンバスに向かい、風の音やほのかな香りといった見えない気配を強烈な色彩で描き出す姿。
そのどちらもが、パブロ賢次という一人の人間の「真なる実存」です。

​もし東京駅を利用する機会があれば、ぜひ丸の内北口に立ち寄り、彼に靴を預けてみてください。

そして、彼の磨き上げた靴で東京タワーへ足を運び、フットタウン5階の「東京相撲部屋娯楽」でその圧倒的な絵画の世界に身を委ねてみてはいかがでしょうか。

きっと、あなたの足元から心まで、これまでにない深い感動で満たされるはずです。

筆者 akamako